車の素晴らしさを 世界の車ファンへ

VOL.295 / 296

福井 潤一 FUKUI Junichi

東京オートサロン事務局 事務局長
1967年生まれ。埼玉県さいたま市出身。レース業界で広報やイベントを担当する縁でオートサロンの現場に関わるようになり、2002年より株式会社 三栄書房(現 株式会社 三栄)に入社。現在は東京オートサロン事務局 事務局長としてオートサロンを含めたイベント事業を統括している。

HUMAN TALK Vol.295(エンケイニュース2023年7月号に掲載)

1983年「東京エキサイティングカーショー」の名称で産声を上げたチューニングカーとカスタムカーの祭典は、のちに「東京オートサロン」と名前を変え、開催場所も晴海の東京国際見本市会場から東京ビッグサイト、そして幕張メッセへと拡大の歴史を重ねてきた。
今回は2002年より東京オートサロン事務局で運営として携わり、現在では事務局長として活躍する福井 潤一氏にお話を伺った。

車の素晴らしさを 世界の車ファンへ---[その1]

 チューニングやカスタムをテーマにしたカー雑誌「Option」の初代編集長だった稲田さん(大二郎氏)が発起人となって「雑誌に載っている車をみんなに見てもらいたい」という想いから1983年にスタートしたのが「東京エキサイティングカーショー」。当時は「改造車イコール暴走族」みたいな扱いで、まだまだ白い目で見られていたようです。それから’90年代後半に改造車に関する法改正があってチューニングやカスタムが一般化し、「東京オートサロン」にもTRDやNISMOなどメーカー系のパーツブランドが出展するようになりました。

2023 東京オートサロン

毎回出展者自慢のデモカーが祭典を彩る

メーカーの参戦

 そして2000年に入るといよいよトヨタや日産などの自動車メーカーが出展することになりました。その頃から随分と東京オートサロン自体のイメージや、世間の見方が変わってきた印象はあります。会場も幕張メッセへと移り、大きく拡大するタイミングでもありました。ただ、古参の出展者からは「モーターショーじゃなくてチューニングカーショーなのにメーカーが出展するのか」など反対意見もあったようですが、結果としては来場者も増えましたし、場も華やかになりました。やっぱり自動車メーカーが本気で作るカスタムカーは完成度も高いですし、チューニングショップとしては脅威かもしれません。でもその分逆にプライドを持っていただいて、メーカーには無い〝チューニングに賭ける熱さ〟みたいなものを感じますし「メーカーとは違う車づくり、パーツづくりをするんだ」っていうポリシーはむしろ感じるようになったのかもしれません。
 メーカー系、チューニング系、どちらが良い悪いではなく、お互いの良い所を発揮することによりどちらが好みでも楽しめるようになりました。コアなファンも大切にしながら裾野を広げることにより女性や子供も来やすくなりました。そのような変遷を経て今があるので、昔ながらのチューニングショップにもメーカーにも感謝の想いで一杯です。おかげで来場者数も右肩上がりで伸び、2020年には33万6千人を超えるまでに至りました。

晴海で開催時の大行列

‘90年代後半は東京ビッグサイトで開催

コロナ禍での決断

 そして2020年から世界がコロナ禍となり、2021年はリアルイベントとしての東京オートサロンは行わないという決断をいたしました。これは本当に苦渋の決断でしたが、決断時期も前年の12月23日、つまり開催3週間前というかなり直前でのことでした。もちろん会場は押さえてありましたし、チケットも販売済みでした。コロナ禍で世間が大変な時期でしたから、その決断に至るまでの間に出展者の皆様をはじめ多くの方々から「本当にやるのか?どういうやり方をするんだ?」と相当やりとりをさせていただきました。それでもできる限りの策を講じて何とかやれると踏んではいたのですが、医療の緊急事態宣言というものが初めて出されたことを重く受け止め、我々は止めるという判断に至りました。 

新時代のオートサロンをつくる

 ただやはり多くの車ファンの方々や、新しい商品をこのショーのためにご準備いただいたメーカーやチューニングショップ、さらには賛同してくださった皆様のためにお披露目する場は何としてでも作りたいという想いから、来年は絶対開催するんだとあらゆる準備をいたしました。2022年は会場の50%までという厳しい入場者制限がありましたので、密にするわけにはいきません。それもあって全て電子チケットに変え、来場者だけではなく招待券もデジタル化しました。
 もちろん出展者のご協力も必要不可欠でした。例えばブースの設計を考える時に従来なら5台展示していたところを3台に減らすなどして人が密にならないようにする、またはホールごとに人が偏らないよう人が集まる出展者を分散させるなど、かなり細かいシミュレーションを重ねコロナ対策のレギュレーションを作り、周知徹底いただきました。出展者はもちろん設営工事に関わる方、イベント業界のプロの皆さん、このオートサロンに関わる全ての方々の知見を持ち寄り、ご意見をいただきながら「このコロナ禍で誰もやったことがない規模のイベントを成功させるんだ」っていう熱い想いがありました。行政や関係各所にも丁寧に説明、ご理解いただいて、こんな時代でもイベントができることを証明したいという気概があったと思います。おかげでクラスターが出ることもなく、成功することができました。前例が無いことでしたから、勇気を持って参加してくださった出展者、ご来場いただいたファンの皆様、すべての方々に感謝しながら開催できた喜びを噛み締めています。

HUMAN TALK Vol.296(エンケイニュース2023年8月号に掲載)

車の素晴らしさを 世界の車ファンへ---[その2]

 コロナ禍がひとまずの終息を迎え、海外からも東京オートサロンを現地で開催して欲しいというオファーをいただくようになりました。2023年の6月にはマレーシアのクアラルンプールで待望の「東京オートサロン クアラルンプール2023」を開催。イベント名称の先頭に〝東京オートサロン〟を付けたいというのは先方からの要望でした。そして同月にはタイのバンコクでも開催。他にも中国をはじめとする様々な国からオファーをいただいております。もちろん東南アジア諸国のみならずアメリカやEU各国へも「東京オートサロン」というブランドを広げていきたいという思いはあります。

メーカーのブースは新車発表の場にも

オンラインでの展開

 リアルな場を世界へと広げる一方、オンラインでのオートサロンも着々と裾野を広げています。2021年はコロナ禍で東京オートサロンがリアルな場を世界へと広げる一方、オンラインでのオートサロンも着々と裾野を広げています。2021年はコロナ禍で東京オートサロンが開催できなかった事もオンラインが加速した一因ではあります。オンラインオートサロンでは、リアルイベントと同じように出展者の車両やパーツを紹介するだけではなく、動画や出展者のニュースリリースなども掲載されます。ここにメディアが絡んできていただいて発信、拡散、そしてユーザーへと届く。そのようなコミュニケーションの場を現在進行形で構築しているところです。まだ日本向けだけですが、いずれ海外向けにも展開するつもりです。このオンラインオートサロンを通じて日本のアフターパーツブランドをどんどん世界へと広め、リアルとオンラインの相乗効果が生まれることを期待しています。
 また、自動車業界を取り巻くカーボンニュートラル、EVシフトという動きは世界の潮流であり、無視することはできません。そのような中でもカスタムやアフターパーツというもののニーズは決して無くならないと思っています。そこで今年の東京オートサロン開催期間中に国際会議場の一部を使い「オートサロンテック2023」という名称でイベントを開催しました。「カーボンニュートラルに関する知識を、クルマをカスタムして愉しむ層にも知ってもらおう」という主旨で、EVカーや水素エンジン車を展示したり、それらの車をベースにしたカスタマイズ車両も展示したりと、車の多様な楽しみ方の提案をさせていただいたのです。時代に合わせながらも、車のみならずアフターパーツの世界の楽しさというものを築き続けていかなければいけないと思っています。

オンラインオートサロン

入場券はデジタルパスに

日本の車文化を繋げたい

 また、コロナ禍では一時休止していましたが、それまでは東京オートサロンに地元の小学生を毎年招待しておりました。若者の車離れなどの声も聞かれる昨今ですが、若いうちに沢山の面白い車にまずは接していただき、「車ってすごい!」ということを体感してもらうことが車に興味を持つ端緒になるのではと考えています。屋外の走行イベントなどを観れば、いつも乗っている車とは全く違う動きや音を体感できます。それを見ている子どもたちのキラキラした眼差しこそ大切な車の原体験。未来の車社会、車文化を支える子どもたちに少しでも車に触れる機会を設けられればと思っています。
 海外で開催されるオートサロンでも日本の最先端のカスタムカーを持っていくと、ものすごく喜ばれますし、来場者も日本の車文化の一端を楽しんでいるようです。EVであっても水素エンジンであってもガソリンエンジンのように楽しめるし、それぞれの楽しみ方があります。外観は昔の車でも中身を水素エンジンやEVに換装するような斬新な考え方の車もあるように、アフターパーツの業界やカスタムの世界においても車の新たな楽しみ方は世界でどんどん広がっていくと思います。

海外からも多くの観客が

アフターパーツショーの パイオニアとして

 東京オートサロンがはじまって約40年。世界の三大アフターパーツショーと言っていただけるまでになり、出展者も来場者の数も昔に比べれば遥かに増えました。自動車メーカーが出展し、海外インポーターが増え、ライブや屋外走行イベントを行うなど少しずつ変化をしてきました。年の始めの1月に開催するということで、東京オートサロンをその年の体制発表や新車のお披露目の場にしていただいたり、新商品の発表の場にしていただくなど車業界全体に浸透している実感はあります。そこにメディアの方も多数来られて報道してくださるというのはやはり客観的に見てもすごいことだと思いますし、それが継続してきた力なのかなと思います。変化してきたところもありますが、アフターパーツやカスタムカーのイベントとして変わらないところもまたしっかりと持っています。
 我々はどんな時代になってもイベントとして期待いただける以上のものをこれからも創っていく、そういう気概を持ってやっていくつもりです。

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